2025年が分岐点?今盛り上がりを見せるパワー半導体市場の
未来予測

名古屋大学未来材料・システム研究所 
未来エレクトロニクス集積研究センター 
教授 山本 真義 氏

ネプコン ジャパン 事務局 RX Japan
2023年9月21日

10月に名古屋で開催される「第6回 [名古屋]ネプコンジャパン」。今回同展で「次世代自動車2030年ロードマップとそこに求められる次世代パワー半導体実装・センサ応用技術」と題して講演をされる、名古屋大学未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センター 教授 山本 真義氏のインタビューをお届けします。講演に先駆けて、EVへのパワー半導体実装における日本勢と海外勢の方向性の違いや、今まさに盛り上がりをみせるパワー半導体市場の今後の動向予測についてなど、興味深いお話をたくさんお聴きしました。

講演内容について

― まず最初に、10月25日の[名古屋] ネプコン ジャパン基調講演でお話しいただく内容についてお聴かせください。

山本:基本的にはパワー半導体の応用として各自動車メーカーの半導体の使い方を読み解くというアプローチでお話しさせていただきます。
その中でも一つの目玉となるのは、 ASEANに対して先手をうったBYDについてですね。これは特に日本勢が気になるテーマだと思いますが、 BYDが半導体応用技術としてどういった戦略を持って事業展開しているかを、マーケティングではなく技術的な視点から話をしていこうと思っています。また、それに対して現時点における日本メーカーの技術的な立ち位置についても紹介します。
具体的には、トヨタの「TOYOTA bz4X」「LEXUS-RZ」などのEVの半導体戦略や、日産の「ARIYA」に搭載されているEV戦略などを紐解き、中国メーカーと日本メーカー、それからテスラのような新興のインディーメーカーがそれぞれ半導体応用で何を考えて、どういったロードマップで今後事業展開していこうとしているかを紐解いていきます。

 

日本勢 VS 中国・欧州勢、果たして2030年の覇者は…?

山本:電動化戦略においては、中国と欧州が連動しており、それに対して日本はまったく別の方向性を向いています。こうした中で、いったいどちらが2030年の覇者になっていくのかというところを半導体という視点で読み解いていく講演にしたいと思っています。
今後半導体は、従来のSI(シリコン)から SiCといわれる新しい半導体に置き換わっていきます。その時にインバーターに対する部品もどんどん変わっていきます。その部材がこれからのEV車に搭載されるわけですが、現時点でも半導体実装の戦略は両者異なるわけで、2つの潮流がそこからさらに大きく分岐していくことになるわけです。ですから講演では、トヨタ系とBYDやBYDの下に入ってくる可能性のあるドイツのインフィニオン テクノロジーズ系の、今後のパワー半導体実装・センサ応用技術のロードマップをご紹介しようと考えております。

― ありがとうございます。今、日本と海外勢でパワー半導体実装の方向性に2つの潮流があるというお話がありましたが、たとえばトヨタや日産など国内でも各企業ごとの戦略の違いはあるのでしょうか。

山本:国内の方向性は基本的には一緒です。具体的にいうと自動車の前輪と後輪のタイヤの間に、モーターとインバーターとトランスアクスルといった装置を一体化した 「eアクスル」という機構を搭載するわけです。それを両輪に分配するというのが日本の戦略です。そしてこれをいかに薄くしていくかという方向性で開発が進んでいるのが日本の現状です。
これに対して中国/欧州勢は、「eアクスル」ではなく、ホイルの中に全部入れましょうという「インホイルモーター」という機構を利用する方向性で進めているわけです。ですから全然違うわけです。ホイルの中に入るとデファレンシャルギアみたいなものがいりませんので、その分だけ効率はよくなりますが実装が非常に難しくなります。このように、センサーや半導体の元になる技術がパラダイムシフトのように変わっていくというところが今回の講演の主題になります。

― まさに今変わっているところなんですね。その限界点はどのくらい先の未来になるのでしょうか。

山本:2025年〜26年頃と考えています。そこがターニングポイントになります。そのあたりで日本メーカーや中国/欧州勢の2035年くらいまでのロードマップがパッと見えてきます。今後、2025年にはトヨタの次のプラットフォームが発表され、27年には新しい革新的なものになっていくので、その方向性がどうなるかによっても変わると思うんですね。だから2025年あたりになるといろんなことが見えてくるのかなと思っています。

 

2030年以降のパワーデバイス市場はどうなっている?

― 今のパワーデバイスやパワーモジュール市場は、特にEVが牽引していると思うのですが、今後2030年、それ以降を見据えた時に、パワーデバイス市場はどのようになっていくとお考えですか。

山本:完全に二極化していくと思います。今後SiCという半導体が様々なデバイスに搭載されていき、クルマにおいては、フラッグシップモデルに近いような高付加価値のクルマの電圧が引き上げられる可能性があります。具体的にいうと800Vから900Vに引き上げられます。カローラクラス以下のクルマだと400Vになり、これまで通りのSIで対応できるのですが、800VになるとSiCが得意な分野になってきます。それが全体の2〜3割くらいで、残りは400Vになって、SIとSiCの付加価値の付け方、セグメントの売れ方によって半導体市場も大きく二分化していくと予測しています。

― なるほど。いずれにしても間違いなく伸びていく市場ではあるということですね。

山本:そうですね。伸びながらもそこのレーティングとしては変わらずに、という感じだとは思いますね。

 

5年後の業界の方向性を知りたい方はぜひ聴講を

― 最後に、今回講演を聴講するか迷っていらっしゃる方々に向けて、何かコメントをいただけますか。

山本:そうですね、今この業界自体が非常に盛り上がってきてはいるのですが、この盛り上がりに対して逆にいうと、その方向性が見えない状況でもあります。もちろん作ったら売れるという状況ではあるのですが、それがあっという間に欧州系の政治的な戦略、もしくは中国やASEAN系の安い半導体という潮流に一気に飲み込まれていく可能性も孕んでいます。ですから、どういった方向でシステムに貢献していくかという企画も含めた広い視点が、今半導体エンジニアには必要になってきています。だからこそ、目の前の仕事だけでなく、5年後にさらにこの業界を盛り上げていくための方向性や応用を知りたい方は、ぜひ聴いていただきたいというところですね。

― 本当におっしゃる通りだと思います。私もそうですが、どうしても仕事をしていると目の前の忙しさに没頭しがちですよね。特にパワー半導体市場は今後の動向が見えにくいからこそ、今後を予測し、数年先を見据えた一気通貫の視点が必要になってくるということですね。

山本:実際に作れば売れるというところで、事業が主体となってしまっているので、なんとなくこのままでいいんだろうかというぼんやりとした不安を感じておられる方も多いと思います。だからこそ頭の片隅に入れておけるような情報として、この講演が何かプラスになればと思っております。

― 本当にそうですね。今のお話をお聴きして10月の講演がさらに楽しみになりました。有難うございました。

 

[名古屋] ネプコンジャパン基調講演

次世代自動車2030年ロードマップとそこに求められる次世代パワー半導体実装・センサ応用技術

日時:2023年10月25日(水)15:00 ~16:10

講師:名古屋大学未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センター 教授 山本 真義 氏

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