GaN(窒化ガリウム)半導体とは | 最新の市場・技術動向やSiC、Siとのすみ分けもご紹介

スマートフォンの急速充電器やパソコンのACアダプタを、小型化・高効率化する技術として注目されるパワー半導体材料が「窒化ガリウム(GaN)」です。その技術開発や市場の動向、将来性について解説します。

<目次>
・市場拡大中のGaN(窒化ガリウム)とは?
・高性能素材として期待される理由と課題
・GaNとSi、SiCそれぞれの強みとすみ分け
・GaN半導体の課題を解消する技術開発の動向
・GaN半導体の市場動向と半導体メーカー各社の動き
・まとめ | デジタル化と脱炭素化の両立に貢献するGaN
 

市場拡大中のGaN(窒化ガリウム)とは?

「窒化ガリウム(GaN)」と呼ばれる、電力の安定化や電圧変換を図る回路の中に組み込まれるパワー半導体を作るための新たな材料に注目が集まっています。従来の電力関連機器には、長年にわたって、シリコン(Si)を材料として作られたパワー半導体が使われてきました。ところが、その技術が成熟化。より高度な電力の変換・制御に利用可能な新たな半導体材料の活用が望まれるようになりました。こうした要求に応える技術が、GaNをベースにしたパワー半導体なのです。

家電量販店の店頭で、既に「GaN」の活用をキーテクノロジーとして訴求した、スマートフォン用充電器やノート型パソコン用ACアダプタを見かけたことがある人もいることでしょう(図1)。高出力で急速充電が可能な性能を持ちながら、従来製品よりも体積や重量が半分以下にまで超小型・軽量化した製品です。

図1 「GaN」は高性能・超小型な充電器であることを示すアイコンになっている
出所:筆者が撮影

携帯機器が日常品となり、充電器やACアダプタを持ち歩く人が増えました。ACアダプタのような電源機器は古くから使われており、少しずつ小型・軽量化が進められてきましたが、その努力も限界に近付いていました。ところがここ数年、目覚ましい進歩を遂げ、より大出力、より小型・軽量、さらに高い電力効率の製品が続々と登場しています。こうした電力関連機器の進化を加速させている最大の要因が、高速で低損失のGaN-HEMTの適用なのです。

その応用は、携帯機器の充電器だけにはとどまりません。社会のデジタル化によって消費電力が増大し続けているデータセンターや、高度な自動運転システムを搭載するようになる次世代車などの領域でも、GaNデバイスを活用した超小型・軽量で高効率な電源回路や駆動回路の活用が注目されています。

高性能素材として期待される理由と課題

ACアダプタなどに使われていたSiデバイスをGaNデバイスに置き換えることで、なぜ機器の小型・軽量化や高効率化が実現するのでしょうか。その理由を読み解く鍵は、GaNが持つパワー半導体の材料に適した物性にあります。

電子の移動度(材料中での移動スピードに相当)や絶縁破壊電界強度、誘電率といった物性値から計算した「バリガ性能指数」と呼ぶパワー半導体材料の適性を示す指標に注目すると、GaNは930と極めて高い値となります。GaNと並んで次世代パワー半導体材料に挙がるシリコンカーバイド(SiC)の同指数は500であり、それを上回る値です。バリガ性能指数が高いことは、より高電圧な電力を低損失で高周波動作させる能力を持つことを意味します。

パワー半導体材料として優れた潜在能力を持つGaNですが、現状のGaN基板(ウエハー)には課題が残っています。高品質で、大口径の基板を低価格で入手することが困難なことです。この点では、SiCの方が優れているといえます。

こうしたGaN基板が抱える課題を補うため、現状のGaNデバイスでは、比較的大口径(6インチもしくは8インチ)のSi基板もしくはサファイア基板上にGaN薄膜(GaN on Siと呼びます)を載せ、さらにその上にAlGaN膜を載せて、「HEMT(高電子移動度トランジスタ)」と呼ぶ特殊な横型構造のトランジスタを形成しています(図2)。ただし横型構造のHEMT構造での高耐圧化は限定的であり、数十V~650Vにとどまります。

図2 GaNデバイスで採用されているGaN HEMTの構造と、将来市場投入される可能性のあるGaN縦型MOSFET(トレンチ型)の構造
出所:筆者が作成

GaN-HEMTにはSiやSiCで採用されている素子構造であるMOSFETに対するメリットとして、GaNの材料物性だけでなくGaNとAlGaN層の間に作られる二次元電子ガスの利用があり、大きな効果を生みます。この二次元電子ガスの利用により、低抵抗、高速スイッチングが可能となるのです。

近年の電源回路やモーター駆動回路では、高速なスイッチング動作によって電力をキメ細かく制御する技術が広く使われています。パワー半導体を高速動作できれば、電力効率の向上に加え、コンデンサや変換器(トランス)など回路を構成する周辺部品の小型化が可能になり、応用機器の小型・軽量化の実現に貢献できます。また、Si基板上のGaN薄膜にパワー半導体を形成するとともに、パワー半導体を駆動させるために欠かせない周辺回路を作り込んで1チップに集積化し、さらなる高速化、低損失化を狙った開発例も最近出てきました。
 

GaNとSi、SiCそれぞれの強みとすみ分け

現状では、それぞれの応用機器で求められる技術要件や市場からの要求に応じて、パワー半導体材料としてSi、SiC、GaNの3つが棲み分けています(図3)。ここでは各材料の応用適性を紹介します。

図3 耐圧と対応する電力容量から見たパワー半導体でのSi、SiC、GaNの棲み分け
出所:筆者が作成

Siパワー半導体は安定した量産体制が魅力

まずはSiデバイス。現時点でのSiデバイスは、低電圧・小容量の応用から高電圧・大容量の領域まで、広範な応用で利用されています。既に安定した量産体制が整備されており、SiCやGaNのパワー半導体がまだ高価であることから、低コスト化の要求が厳しい民生機器、産業機器や自動車用途などの応用を中心に広く利用されています。

その一方で、系統電力網で使われる電力変換設備など、超高電圧・超大容量の領域においてもGTOやGCT、IGBTなどのSiデバイスが利用されています。現時点のSiCやGaNでは、6.5kV~10kV程度の耐圧といった超高圧の電力を安全かつ安定的に扱った実績のあるパワー半導体が出来上がっていないからです。

 

SiCパワー半導体はEVのモーター駆動などの領域に期待

次はSiCデバイスです。現在実用化しているSiCデバイスの多くは、素子構造として、高耐圧な縦型MOSFET構造を採用しています。そして、主に600V以上の高電圧を扱う応用で活用されています。ただし、現時点で実用化されているデバイスの最大耐圧は3300Vであり、必然的に求められる耐圧が600V~3300Vの範囲で、同時に高効率化や応用機器の小型・軽量化に対する要求が高い応用に利用されています。

具体的には、電気自動車(EV)など電動車のモーター駆動用インバータや太陽光発電設備の電力変換回路(パワーコンディショナ)、工場やデータセンターの無停電電源(UPS)、大容量が求められる産業機器のモーター駆動回路などがそれに該当します。EV向けなどは需要量が多いため、SiCデバイスの市場は急成長が見込まれています。

 

GaNパワー半導体は650V以下の高速動作が求められる用途に有利

最後は、GaNデバイスです。現状のGaNデバイスは、高速動作が可能なGaN HEMTの特徴を生かして、600V以下の電力を扱い、高効率化や小型・軽量化の付加価値が高い応用機器で利用されています。本来、GaN HEMTには、オンオフ制御するゲート電極に電圧を印加しないと導通状態(ノーマリーオン状態)になってしまい、使いにくい性質がありました。2007年にパナソニックがノーマリーオフを実現できる素子構造を開発。これを端緒に、従来Siデバイスが使われていた既存応用機器への適用が進みました。

GaN半導体の課題を解消する技術開発の動向

今後、GaNデバイスの応用をさらに拡大し、市場を成長させるためには、解決しておくべき課題がいくつかあります。その解決に向けた取り組みとともに紹介します。

 

過電圧に対する脆弱性の解消

現在のGaN HEMTの欠点として、過電圧に対する脆弱性が挙がっています。異常動作やノイズなどを原因とする過大な電圧が印加されると一発で壊れてしまうのです。Si MOSFETなどでは、素子の内部に形成されたPN接合が過電圧を熱に変えて吸収し、壊れることがありません。ところが、GaN HEMTには同様の役割を果たすPN接合が素子内に存在しないのです。

この課題を解消するための技術開発が進められています。産業技術総合研究所は、GaN HEMTとSiCダイオードを1つの素子中に複合的に作る技術を開発しました(出所)。高電圧電力を高い周波数で動作させられるGaN HEMTのメリットを維持しつつ、欠点を解消できる技術です。

 

素子構造の改良に不可欠なP型半導体

パワー半導体の性能向上には、新材料の導入だけでなく、素子構造の改善も欠かせません。半導体デバイスは、半導体材料に特定の不純物を添加/注入し、電気的特性が異なるP型(正電荷で電気伝導)とN型(負電荷で電気伝導)を所定の場所に作り分けて形成します。ところがGaNは、半導体の結晶構造を維持しながら所定の場所にP型半導体を作ることが困難でした。素子構造の改善を推し進めるためには、この欠点の解消が必須です。

ただし、欠点の解消に道を開く研究成果が出てきています。名古屋大学のグループは、イオン注入によってGaN結晶内の所定の位置に不純物を打ち込んだ後に、超高圧状態で熱処理することによって、結晶品質の高いP型半導体を作ることに成功しました(出所

 

GaNの潜在能力を引き出すGaN on GaN技術の確立

先述したバリガ性能指数から見ればGaNはSiCよりもパワー半導体への適性が高い材料だといえます。ただし、その潜在能力を最大限まで引き出すためには、GaN基板上にGaNデバイスを形成するGaN on GaN技術の開発が必須になります。

既に、国内の大学や企業によって、高品質で大口径なGaN on GaN基板を作成する技術の研究開発が進められています。三菱ケミカルは高品質な4インチの結晶の生産技術を確立し、大阪大学は12インチ化といった大口径・高品質のGaN on GaN基板を作成できる技術を開発しました。さらに、信越化学工業とOKIは、「QST基板」と呼ぶGaNと熱膨張係数が近い特殊な基板上にGaNの厚膜を形成し、これを任意の基板に転装できる技術を開発しました(出所)。デバイスレベルでは、米NexGeN Power Systemsが、2023年2月に、GaN on GaN基板を利用して耐圧が700Vと1200VのGaN縦型ジャンクションFETを世界で初めて商品化しました(出所)。

GaN半導体の市場動向と半導体メーカー各社の動き

GaNデバイスの市場は、これから急成長することが確実とみられています。フランスの市場調査会社Yole Groupは、2022年から2028年まで、GaNパワー半導体市場が年平均成長率(CAGR)49%で急成長すると予測しています(図4)。

図4 GaNデバイスの市場は、2022年から2028年の間に年率49%のペースで急成長
出所:Yole Groupの資料をもとにRX Japanで作成

ファブレスメーカーがシェア上位に、新規参入の余地あり

現時点で、主要プレイヤーの中には、米Navitas Semiconductor、米EPC、カナダGaN Systemsなど、工場を持たないファブレス半導体メーカーがシェアトップ10に名を連ねています。近年では、世界最大の半導体ファウンドリーである台湾TSMCが、GaN on Siでのチップ製造受託サービスを強化。ファブレス半導体メーカーの新規参入がより容易になりつつあります。

 

大手パワー半導体メーカーの買収/投資の動きが活発化

その一方で、近年、大手パワー半導体メーカーの参入や大型の買収/投資も目立つようになりました。

特に動きが活発なのは、パワー半導体のトップメーカーであるドイツInfineon Technologiesです。これまでSiCデバイスのビジネスに注力すると見られていた同社は、GaN Systemsの買収を発表して大きな注目を集めました(出所)。また、設備投資も積極的で、マレーシアのクリムにある製造拠点に、SiCとGaNの8インチ対応の前工程の新工場を建設すると発表しました(出所)。

パワー半導体で世界シェア3位のスイスSTMicroelectronicsも、GaNデバイスの事業を強化しています。TSMCとGaN製造技術の開発やGaNベースの半導体製品の供給などで協力すると発表。さらに2020年3月には、GaN on Si技術を保有するフランスのExaganを買収し、フランスのトゥールに8インチ対応のGaNデバイスラインを構築中です。さらに、自動車大手のRenaultグループと戦略的提携を結び、EVやハイブリッド車のパワーエレクトロニクスシステム製品、パッケージ技術の開発・製造・供給で協力しています。
 

まとめ | デジタル化と脱炭素化の両立に貢献するGaN

現在のGaNデバイスは、さまざまな情報通信機器やデータセンター、自動運転システムなど次世代車の電装品の電源装置などへの応用が期待されています。これらは、社会のメガトレンドであるデジタル化に欠かせない機器ばかりです。ただし、これらが性能を発揮するためには相応の電力消費が必要になります。その発展は消費電力の増大を助長すると言えます。もう一つのメガトレンドである脱炭素化と両立させるためには、より効果的な省エネルギー化技術が不可欠です。そこでGaNデバイスの活用に向けられる期待は極めて大きいといえるでしょう。

 

監修・執筆者情報

監修:高橋 良和

経歴:
東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター 研究開発部門長 教授
文部科学省 革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業パワエレ回路システム領域「脱炭素社会に貢献する集積化パワーエレクトロニクス」研究代表

 

執筆:伊藤 元昭 

経歴:富士通株式会社にて、半導体エンジニアとして、宇宙開発事業団(現JAXA)の委託による人工衛星用耐放射線半導体デバイスの開発に従事。日経BP社にて、日経マイクロデバイスおよび日経エレクトロニクスの記者、副編集長、日経BP半導体リサーチの編集長を歴任。