次世代パワー半導体で勝つのは!? SiC、GaN…最新動向から現在地と見通しを解説

脱炭素化や省エネルギー化の推進を狙って、次世代材料を用いて製造した高効率なパワー半導体の活用が広がっています。SiCやGaNなど、複数存在する次世代材料の棲み分けや技術・市場の最新動向を解説します。

<目次>
・次世代のパワー半導体が求められる理由
・次世代半導体材料が台頭、SiCとGaNが先行し将来材料の準備も着々
・次世代パワー半導体の最新動向と課題
・まとめ | 次世代パワー半導体は進化と成長の余地が大きなフロンティア
 

次世代のパワー半導体が求められる理由

2023年11月30日~12月12日に掛けて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで「国連気候変動枠組条約 第28回締約国会議(COP28)」が開催されます。ここ数年間、各国政府によるカーボンニュートラル達成へのコミットや、実効性のある脱炭素施策の実施の合意など、より厳格な取り組みが相次いで実施される傾向にあります。これに伴って、企業における脱炭素化の取り組みが、単に社会貢献を目指すものから、規制や税制、取引条件などをクリアするビジネス活動そのものへと変貌しつつあります。

カーボンニュートラルの達成には、再生可能エネルギーや水素、そして省エネルギー化など、さまざまな領域の技術の活用が欠かせません。中でも、電気電子機器というさまざまな領域で活用されている機器での省エネルギー化に貢献可能で、しかも省エネルギー化の工夫の余地が大きく残されている技術分野という観点から、半導体チップの一種であるパワー半導体に注目が集まっています。
 

脱炭素化/省エネには、半導体の高性能化/高効率化が欠かせない

パワー半導体とは、電源回路や電力変換回路(電圧、周波数、直流/交流など)の中に組み込み高電圧・大電流を扱う半導体チップです。家電製品やIT機器、さらには電気自動車(EV)、産業機器、太陽光発電設備、電力システムなど、あらゆる電気電子機器/設備の中で必ず使われています(図1)。そして、脱炭素化と省エネルギー化の推進に向けて、パワー半導体の活用によってさらなる性能と電力効率の向上が期待されています。改善余地が、まだまだ多く残されているからです。

図1 あらゆる電気電子機器/設備に利用されているパワー半導体
出所:筆者が作成

産業用モーターなどを開発・販売している東芝三菱電機産業システムズによると、世界中で発電されている電力のうちの約5割、日本では6割以上が、何らかのモーターを動かすために消費されているそうです。そして、モーターを動かす駆動回路において無駄な電力が熱となって大量に消費されています。こうした無駄を解消するためには、より高性能で高効率なパワー半導体を活用した駆動回路が必須です。

また、発電所で生み出された電力は、送配電網を経由して家庭に届き、手元の家電製品などで利用されるまでの間に、何度も電力変換を繰り返しています。そして、電力変換を重ねる過程で、電力の3割以上が無駄に損失しています(図2)。こうした損失を最小化するためにも、電力変換回路に使われているパワー半導体の進化が欠かせません。

図2 発電した電力の3割以上が送配電の過程で損失
出所:筆者が作成

日本企業が強いパワー半導体は国の期待も大きい

パワー半導体の領域は、現時点でも日本企業の国際競争力が維持されている数少ない半導体ビジネスです。世界市場でのシェアトップ10の中に、三菱電機、富士電機、東芝、ルネサスエレクトロニクス、ロームの5社が食い込んでいます。

2021年6月に打ち出された「半導体・デジタル産業戦略(いわゆる半導体戦略)」に沿って国内半導体産業の再興を目指す経済産業省は、パワー半導体の領域の強化も図っています。そして、2023年1月には、半導体のサプライチェーン強靭化の一環として、高度なパワー半導体での国際競争力を維持するための投資を支援する補助金の募集が始まりました。

 

次世代半導体材料が台頭、SiCとGaNが先行し将来材料の準備も着々

これまでパワー半導体は、約60年間にわたってシリコン(Si)を基板材料として利用し、主に素子構造を改良することで性能や電力効率を改善してきました。デジタル半導体向けに大量生産されコスト面で優位性があり、さらには素子構造の改良には、製造プロセス的に熱酸化膜が安定しており、インプラントによる不純物濃度の打ち込み位置の精密な制御が可能など、加工しやすい物性を備えたSiの使い勝手がよかったからです。ところが素子構造の改善による伸びしろが、さすがに少なくなってきました。

そして現在、パワー半導体により向いた物性を持つ新材料に置き換える動きが活発化してきています。直近では炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を使ったデバイスの開発・実用化・応用拡大が進んでいます(図3)。Siデバイスから新材料に置き換えることで、電源回路や電力変換回路などの電力効率向上や小型・軽量化、放熱システムの簡略化など多様なメリットが得られます。

図3 次世代パワー半導体の実用化への道のり
出所:筆者が作成

さらに、SiCやGaNよりも高い性能・効率を実現できる潜在能力を持つ将来材料の技術開発も始まっています。既に、酸化ガリウム(Ga2O3)やダイヤモンドなどの高品質な結晶基板(ウエハー)の開発と、それを利用したデバイスの試作が着々と進んでいます。
 

次世代パワー半導体の最新動向と課題

Siに代わる多様な次世代パワー半導体それぞれの技術開発や市場の動きを、材料ごとに見てみましょう(図4)。現時点では、これらの新材料は応用ごとに棲み分けています。ただし、今後、それぞれの性能が高まるにつれて、次第に競合する方向へと向かいそうです。

図4 次世代パワー半導体の応用分野と棲み分け
出所:筆者が作成

【SiC】EV向けの普及で、爆発的な市場成長が期待される

SiCデバイスは、既に鉄道のモーター駆動用インバーターや太陽光発電施設での電力変換設備、さらにはデータセンターと工場で使用する無停電電源(UPS)など、おおよそ600V以上の高耐圧が求められる多様な応用で、活用が広がっています。そして、米テスラが2017年に市場投入したEV「Model 3」のモーター駆動用インバーターに採用して以降、EVでの採用拡大が加速。2025年以降に市場投入されるEVでは、SiC採用が一大トレンドになるとみられています。

ただし、SiCのさらなる応用拡大には、解決すべき課題が残されています。デバイス製造のベースとなるウエハーの「高品質化」による信頼性向上と、デバイスの生産効率向上に欠かせない「大口径化」、さらにはウエハーとデバイスそれぞれの製造手法の改善による「低コスト化」です。
 

【GaN】スマホの超小型充電器など身近な場所で普及

GaNデバイスは、現状では横型GaN-HEMTが主で、パソコンのACアダプターや携帯電話の超小型急速充電器、さらにはデータセンター用サーバーの電源など、数十~600Vの耐圧が求められる応用で、既に広く利用されています。GaNデバイスの生産には、世界最大の半導体製造受託企業である台湾TSMCも参入。そのサービスを利用して、チップ設計だけに注力するファブレス半導体メーカーが数多く登場し、大きなシェアを獲得しています。

GaNデバイスにおいても、応用拡大に向けて解決が期待されている課題が残されています。デバイスの生産効率を高めるためのウエハーの「大口径化」、民生機器でも広く活用できるようにするための「低コスト化」などです。さらに、さらなる進化への期待という意味で、複数デバイスを1チップに集積してまとまった回路を形成する「IC化」と、電気電子機器の高パワー化に対応する「高耐圧化/大電流化」を実現する縦型GaNデバイス技術の行方にも注目が集まっています。
 

【Ga2O3】日本のスタートアップが技術開発をリード

酸化ガリウム(Ga2O3)は、パワー半導体の材料としての適性では、SiCやGaNを凌駕する潜在能力を秘めた半導体材料です。また、物性上、結晶の高品質化や低コスト化に向く特徴も備えています。現時点では結晶成長とデバイス作成それぞれが研究開発レベルにありますが、日本のスタートアップであるFLOSFIAとノベルクリスタルテクノロジーが、それぞれ高い潜在能力を引き出すための技術開発を着々と進めています。量産化に向けた課題として、高性能チップの実現に欠かせない「P型層」の実現や、熱伝導率が低いことを補う「放熱技術の確立」などが挙がっています。
 

【ダイヤモンド】物性面から見れば究極のパワー半導体材料

ダイヤモンドは、耐圧、移動度、熱伝導率、電子的特性の制御など、パワー半導体を作成するうえで適した数々の特性を高レベルでバランスよく兼ね備えています。物性の潜在能力から見れば、究極のパワー半導体材料といえます。ダイヤモンドをチップ製造用の基板として作成する技術の開発が進められ、2インチ基板を利用したデバイス開発も行われています。日本は、佐賀大学が世界最高出力を実現したダイヤモンドデバイスを実現した成果を挙げています。課題は、基板の「高品質化」と「大口径化」、硬く加工が困難な物性を克服した「製造技術の確立」などが挙がります。
 

まとめ | 次世代パワー半導体は進化と成長の余地が大きなフロンティア

カーボンニュートラル達成に向けた取り組みが加速する中、次世代のパワー半導体のさらなる進化と供給量の拡大には大きな期待がかけられています。技術面での進化と事業面での成長の余地が大きく残された、現代のフロンティアであるといえそうです。
 

監修・執筆者情報

監修:高橋 良和

経歴:
東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター 研究開発部門長 教授
文部科学省 革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業パワエレ回路システム領域「脱炭素社会に貢献する集積化パワーエレクトロニクス」研究代表

 

執筆:伊藤 元昭 

経歴:富士通株式会社にて、半導体エンジニアとして、宇宙開発事業団(現JAXA)の委託による人工衛星用耐放射線半導体デバイスの開発に従事。日経BP社にて、日経マイクロデバイスおよび日経エレクトロニクスの記者、副編集長、日経BP半導体リサーチの編集長を歴任。