酸化ガリウム(Ga2O3)はパワー半導体の有望株!?実用化に向けた最新開発動向を解説

より高効率なパワー半導体の実現に向けて、早くも次々世代材料の開発が活発化しています。材料の候補は複数ありますが、特に注目されているのが「酸化ガリウム(Ga2O3)」です。その技術開発動向を解説します。

<目次>
・酸化ガリウム(Ga2O3)とは?
・Ga2O3が他の次世代材料に置き換わる3つの理由
・実用化に向けた課題と開発最新動向
・まとめ | 酸化ガリウムに期待を寄せるパワー半導体業界
 

酸化ガリウム(Ga2O3)とは?

パワー半導体の次世代材料が普及し始めている中、早くも、電力効率の改善余地をさらに拡大できる可能性を秘めた次々世代材料の開発が活発に進められています。候補材料はいくつかあります。その中で、特に大きな期待をかけられているのが「ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体」(一般にバンドギャップのエネルギーが3.4eVよりも広い材料の総称)である酸化ガリウム(Ga2O3)です。

カーボンニュートラル達成に向けて、無駄な電力消費を削減する取り組みは、ますます活発化していくことでしょう。電気電子機器の消費電力を最小化するため、電源回路やモーター駆動回路などに利用されるパワー半導体の材料として、既存のシリコンより(Si)も高効率な電源回路やモーター駆動回路を作ることができるシリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)の活用が広がりつつあります。ただし、これら次世代材料の利用が本格化した後にも、電力効率向上を求める声は継続的に挙がる可能性は高いと思われます。


もちろん、SiCデバイスやGaNデバイスの素子構造を改良することによっても、こうした要求に応えることができます。しかし、劇的な効率向上を求めるのならば、次世代材料であるSiCやGaNに加えて、 Ga2O3をはじめとする次々世代材料の投入に踏み切る必要性に迫られるかもしれません(図1)。

図1 パワー半導体の主流材料は、Siから次世代材料、そして次々世代材料へ
出所:筆者が作成

酸化ガリウムの物性・構造

パワー半導体材料としてのGa2O3には、結晶構造が異なる2つのタイプがあります。菱面体晶のα型と単斜晶のβ型です。このうち安定した結晶構造はβ型であり、α型は準安定相となります。Ga2O3には、これら2つのタイプ以外にも、γ型、δ型、ε型もあります。これらは現時点ではパワー半導体材料としての利用が想定されていません。

Ga2O3のバンドギャップエネルギーの値は、α型が5.3eV、β型が4.5~4,9eVです。いずれもSiCの3.26eV、GaNの3.39eVよりも大きなものです(図2)。そして、パワー半導体材料としての適性を示す「バリガ性能指数」を見てみると、Ga2O3はα型が6726(推定値)、β型が3444という極めて高い値となります。SiCは500、GaNは930であることから、次世代材料と比べても桁違いに高い潜在能力を秘めていることがわかります。

図2 α型とβ型の物性の違い
出所:各種資料から筆者が作成

日本国内では、α型を2011年創業の京都大学発ベンチャーであるFLOSFIAが、β型をタムラ製作所などが出資するノベルクリスタルテクノロジーが、基板とデバイスの作成技術を開発しています。いずれもGa2O3パワー半導体専業のスタートアップ企業です。
 

高電圧・大電流の応用での活躍に期待

Ga2O3を使ったパワー半導体は、現時点では研究開発の段階にあります。その物性を鑑みれば、本来は、SiCやGaNよりも高電圧・大電流の電力を扱う応用分野での活用が期待されるといえます。

ただし、実用化当初のデバイスは、デバイス製造技術や利用技術が未成熟なため、Ga2O3の潜在能力をフルに生かしたものにはならない可能性が高いでしょう。応用機器全体の性能が上がり、デバイスの特長が生かせる分野から投入されるのは、SiCデバイスやGaNデバイスでも見られた応用展開です。まずは、空調装置の駆動回路やACアダプタ、PFC(力率改善回路)など民生用電源回路への応用から始まる可能性が高いかもしれません。その一方で、防衛関連の企業や機関が、Ga2O3の潜在能力を生かした応用を拓くという見方もあります。
 

Ga2O3が他の次世代材料に置き換わる3つの理由

半導体材料の刷新は、半導体メーカーにとっても、ユーザーにとっても、覚悟と労力を伴う一大事業です。それでも、Ga2O3の実用化にメドが立てば、SiCやGaNなどの次世代材料に置き換わる可能性が出てきます。Ga2O3と並ぶ次々世代材料として、ダイヤモンドや窒化アルミニウム(AlN)などの研究開発も進められています。これらの中で、Ga2O3は実用化に最も近い材料であるとみなされています。
 

SiCやGaNよりも、大きな電流/電圧が扱うことが可能

次世代材料をGa2O3で置き換える最大の動機となるのが、パワー半導体材料としての潜在能力の高さです。

Ga2O3をパワー半導体材料として実用化するための技術開発を進める研究者は、SiC比で電力損失を3分の1以下に削減できるとみています。このため、より大きな電流を扱う応用に適用するデバイスの作成が可能です。データセンターのサーバーや車載の電気電子機器では、高性能化が進み、より大電流に対応できる高効率な電源が求められていますから、適用可能な応用先は多いことでしょう。

さらに、絶縁破壊電界強度はα型が10 MV/cm(推定値)、β型が8MV/cmと、SiCの2.8 MV/cmやGaNの3.3 MV/cmを大きく上回っています。このことから、次世代材料では対応できなかった超高耐圧パワー半導体の実現にも道が開く可能性もあります。電力網向けの超高電圧・超大電流を扱う電力変換設備などに適用される可能性が出てくるかもしれません。
 

Siに近い低コスト基板の生産可能性

見逃せないのが、SiCなど次世代材料の基板よりも、安価にGa2O3基板を製造できる可能性が高いことです。

SiC基板を切り出す前の結晶(インゴット)を作成する工程では、気相成長法と呼ぶ方法が使われます。気相成長法には、原料を昇華させるために大きなエネルギーの投入が必須で、しかも結晶成長の速度が遅い欠点があります。これらがSiC基板のコストを高めている要因となっています。一方、GaN基板は、そもそも結晶欠陥が少ない高品質で大口径の基板を作ることが難しく、各研究機関が課題解決に取り組んでいます。そして、高価です。

これに対し、β型のGa2O3基板の製造工程では、Si基板の製造工程と同じ融液成長法を利用できます(図3)。液体状態の原料溶液に種結晶を浸して、ゆっくり引き上げることで高品質な結晶を成長させることができます。一方α型のGa2O3基板は、ミストドライ法と呼ばれる方法を使って、同じα構造の安価なサファイア基板上に成膜します。ミストドライ法とは、液体原料を超音波振動で霧状にして、高温加熱された基板上に吹付けて成膜する方法です。こちらも非真空環境下で成膜できるため、製造装置が安価です。

図3 β型のGa2O3基板は、Si基板の製造工程と同様の技術を利用できるため安価
出所:ノベルクリスタルテクノロジー 

またSiCはダイヤモンドに次ぐ硬い材料であるため、加工が難しく、インゴットからウエハー状態の基板を切り出すのにコストと時間を要します。これに対しGa2O3は、α型とβ型いずれもSiとほぼ同じ硬さです。このため、基板への加工には、Si基板用の装置をそのまま転用できます。
 

日本国内での研究が進み、実現可能性が高い

さらに、日本国内に技術を保有するスタートアップが存在し、国内の半導体メーカーや材料・製造装置メーカーとの連携を推し進めて、実用化を加速しやすいのも有利な点です。実際、Ga2O3の技術開発を進めている国内スタートアップ2社は、さまざまな企業との協業で事業化に向けた取り組みを加速しています(図4)。

図4 β型Ga2O3基板。技術を開発する国内スタートアップ2社は、さまざまな企業との協業で事業化を加速。
出所:ノベルクリスタルテクノロジー 

Ga2O3の技術開発を進めている国内2社のうち、FLOSFIAは、2015年にGa2O3を使ったショットキーバリアダイオード(SBD)を「GaO®-SBD」というブランド名で製品化し、サンプル提供を開始しました。2024年には本格量産を開始する予定であり、2025年には自社工場でのフル生産を開始し月産100万~200万個の製造を見込んでいるとしています。また、アンペアクラスの1700V耐圧 SBDの開発にも成功しました(出所 )。同社には、三洋化成工業、ダイキン工業、デンソー、三菱重工業などが資本参画しています。

一方、ノベルクリスタルテクノロジーは、2022年3月にはデバイスの動作を阻害する結晶欠陥を従来の10分の1に低減する技術(出所 )や、6インチ基板上にGa2O3成膜する技術(出所 )など、開発の成果を着実に上げてきました。さらに、アンペア級の大電流に対応する耐圧1200VのSBD(出所 )や、耐圧1000VのMOSFETも開発しました(出所 )。同社は、三菱電機からの出資を受け、両社が協業しながら開発を加速させていく体制を整えました(出所 )。また、JSRやロームなどを引受先とする第三者割当増資を実施し、β型Ga2O3基板の事業化に注力しています。

実用化に向けた課題と開発最新動向

パワー半導体材料として魅力的な潜在能力を持つGa2O3ですが、広く普及させるためには解決しておくべき課題がα型とβ型それぞれにあります。具体的な課題とその解決に向けた動きを紹介します。
 

基板品質と耐圧性能に改善余地があるα型

まず、α型には基板品質や耐圧性能に、改善の余地があるとされています。α型はサファイア基板上に成膜し、サファイアとGa2O3は結晶構造に関しては同じなのですが、格子定数(結晶の大きさや形状を表す値)が異なるため、界面で欠陥が生じやすいからです。一方、β型は高品質なバルク(塊の)結晶が既に出来上がっています。

また、α型は薄膜のGa2O3上にデバイスを形成するため、高耐圧化に向く縦型デバイスを形成した際の基板品質や耐圧性能に関する懸念も課題です。ただし、基板品質や耐圧性能に対する懸念は、α型自体の潜在能力が高いため、デバイスを作った際に欠点として顕在化してこないとみる意見もあります。
 

放熱性を高める工夫が必要なβ型

その一方で、β型にはデバイス形成時に放熱性を高めるための工夫が必要だとされています。そもそもGa2O3は、熱伝導率が0.1~0.2 W/cm・Kと、Siの1.5 W/cm・K、SiCの4.9 W/cm・K、GaNの2W/cm・Kと比べて高くはありません。パワー半導体は、動作中に少なからず発熱するため、放熱に難があると安定動作が期待できません。ことさらβ型で問題視されるのは、α型では薄膜材料でデバイスを作るのに対し、β型では厚い材料を利用するため熱がこもりやすいからです。また、P型の半導体を作るのが難しい点も、α型とβ型ともに課題です。これも、将来デバイス構造を改善・進化させる際の足かせになってしまいます。

こうした問題を解決するため、研磨によってデバイスを薄くして放熱性を高める技術や、P型に酸化銅(I)や酸化ニッケルを組み合わせて使うといった解決法が試されています。α型に関しては、既にP型半導体の作成技術が開発中です(出所 )。
 

まとめ | 酸化ガリウムに期待を寄せるパワー半導体業界

これまでGa2O3は、研究段階のパワー半導体材料でした。しかし近年、開発を進めている各社からサンプル品が供給され、さらには大手半導体メーカーが出資するなど、実用化に向かって大きく動き始めています。これから量産や応用機器の登場といった具体的な動きが出てくる可能性が高く、その動向には注目です。
 

監修・執筆者情報

監修:高橋 良和

経歴:
東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター 研究開発部門長 教授
文部科学省 革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業パワエレ回路システム領域「脱炭素社会に貢献する集積化パワーエレクトロニクス」研究代表

 

執筆:伊藤 元昭 

経歴:富士通株式会社にて、半導体エンジニアとして、宇宙開発事業団(現JAXA)の委託による人工衛星用耐放射線半導体デバイスの開発に従事。日経BP社にて、日経マイクロデバイスおよび日経エレクトロニクスの記者、副編集長、日経BP半導体リサーチの編集長を歴任。